先日読んで、何年ぶりかで、イチ押しできると思ったのがこの本です。
イチ押しはどれくらい久しぶりかというと、2009年1月に読んだ、【読書】21世紀の歴史 / ジャック・アタリ 以来。
著者は現在うちの長女の大学で教鞭をとっている日本人の歴史学者ですが、ジャック・アタリ級のインパクトですから、ワタシ的にはかなり衝撃的な本でした。
中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史
與那覇 潤 (著)
内容は、中国の真似をしようとか、中国に擦り寄ろうとか、そういう話ではなくて、日本の歴史の解釈です。
與那覇さんによれば、中国という国は、宋の時代にはすでに自由競争と経済のグローバル化が達成された国であって、中華人民共和国である現在においても、千年の歴史を持つ経済の自由化は、人々にとってもはや「当たり前」。
それに比べて、日本の経済は、江戸時代を境に国を閉ざし、鎖国政策のもとで限られたパイを分け合って生きる封建的な構造で、明治以降、いち早く西洋化したように見えてその実、中身は今でもそのまま、藩が会社になっただけ。
藩(会社)のために滅私奉公することで、全体として発展してきた歴史だというのです。
ところが21世紀に入って、さすがに鎖国体質のままでは立ちゆかなくなり、日本人もついに、世界のグローバルスタンダードである中国風(自由経済と個人主義の世界)に変わらなくてはならなくなり、それで困り果てているのが現状だという分析です。
私の歴史の知識は高校レベルで、中国の歴史をそれほど知らなかったので(異様に長いですしね…)、宋の時代に「科挙」が始まったことも、経済が発展して貨幣経済が確立したことも、初めて知りました。
歴史の教科書では大きく取り上げられていない気がするけど、宋って、すごい発展的な国だったんですね。
一方、宋ができた頃、日本はまだ平安時代で貴族が特権を独占していましたが、当時の日本ではまだ官僚の全国統一テスト(科挙)をやるようなインフラ(テキストの印刷技術など)がなくて、天皇が貴族の専横を防ぎたくても、それに代わる官僚を育成する技術がなかったのだそうです。(なのでしかたなく「院政」のような裏技が開発された由)
まぁ平安時代の貴族なんて、和歌を詠み、だらだら長いしゃべり言葉で書かれたメロドラマ(「源氏物語」)にうつつを抜かしていただけで、本気で経済のこととか、考えてなかったんじゃないか的な感じですし…(^^ゞ
世界目線で見たら、遅れた国だったんでしょう…。
文化的には、今の日本の基礎ができた時期だとは思うけど。
とにかく、宋の科挙制度以降、領地を持つ世襲の貴族階級が消えてしまった中国では、科挙に受かった官僚は権勢をふるうものの世襲ではないため、支配層の新陳代謝が起きるし、庶民は父系の血縁ネットワークでもって、親族同士助け合う仕組みを作って、自由競争のリスクに対抗した、とのことです。
一方、土地に縛られて生きる日本人は、血縁よりも地縁で、その村、その藩、その会社に忠誠を誓うことで、相互扶助で生き残る作戦を選んだ、ということです。
言われてみればその通りと、思い当たることがいっぱい。
宋までさかのぼれば、日本と中国の決定的な違いが、くっきりと、目の前にあぶり出されて来ます。
今までの自分の日本と中国のイメージが覆される瞬間。
これぞ読書の醍醐味というやつ。
そういうわけで、文明の大移動を説いた、ジャック・アタリの本以来の、目からうろこのオススメ本なのです。
当然ながら、ジャック・アタリより、はるかに読みやすいし、オススメです。
ちなみに、うちの長女は一般教養でこの先生の授業を取って、「A」をもらったそうです。
語り口は本の文体そのままで、皮肉とブラックなユーモアに満ちていて、個性的で、おもしろい授業だそうですよ。
一般人も聴講できるといいのにね。。