さいたまゴールド・シアター「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」|穂の国とよはし芸術劇場プラット
昨日、観劇してきました。
蜷川演劇にはあんまり興味がないんだけど、来年の「海をゆく者」というお芝居のチケットを買うときにセット券があったので、ついでに買ってみたというだけ。
内容の予習もしなくて、タイトルの「鴉」が読めなくて頭の中で(ぬえ)とか言いながら出かけましたが、もちろん(からす)でした(^^ゞ ついでに「弾丸」は(だんがん)ではなくて(たま)と読みます。
パンフレットによりますと初演は1971年だそうで、その頃私は11歳の小学生。
ですが時代はベトナム戦争やら安保闘争やらで、今とはまったく違う、きなくさい世相だったことは記憶しております。世の中が落ち着いて明るいきざしが見えたのは1980年以降のことで、そこからバブルに向かって一直線だったわけですが、私の世代はやっぱり、全共闘ではなくバブル世代なんですよね。。。大量消費大好き、贅沢大好きで、体制に反抗するより海外旅行とか行って、楽しく暮らそうよ〜、みたいな。
なので、こういう学生運動の立て籠もりみたいなシーンにもあまり心が動かず。であります。
初演では立ち籠もる老婆を石橋蓮司、蟹江敬三、真山知子、緑魔子などが演じたそうですが(今になってみると超豪華なキャストでしたね…)、今回はそれを本物の老婆たちが演じているというのが、非常に異色です。
しかもそれが舞台上で服を脱いだりするので(やめて!脱がないで!)と懇願したくなるわけですが、とりあえず、お芝居の内容が「・・・?」で残念でした。
だいたい、彼らが何に対して反抗しているのかよく分からないのですよね…。誰に向かって?体制?権威?それとも自分たち自身に対して?
なぜ怒っているのか、どうなりたいのかもよく分からないまま、事態はどんどん混沌としてきて、突飛な出来事と、銃撃や爆撃の爆音でびっくりさせながら最後までひっぱっていく…
冒頭の水槽と照明の幻想的な美しさには「ほぉ」と思ったし、そのあとはずっと同じ法廷のセットなのに、たくさんの登場人物たちが波のように寄せては返し、いろんなものを出したり片付けたりして生まれる変化も面白かったです。あるおばあちゃんは舞台上に持ち込んだガスコンロで実際に焼きうどん(?)か何か作って食べたし!
しかしながら、あまりにも内容が私自身のいる場所から遠く、だんだん意識が薄れ、うっかり途中で首が「かくっ」となる始末。
ただ、終了後にアフタートークセッションがあって、それはめっちゃ面白かったです。
登場した男女2名の役者さんはふたりとも80歳超えだそうで。(10歳は若く見えた)
全裸に赤パンツ一枚でずーっと舞台上にいるという身体をはったお芝居をしていた役者さんは戦中育ちで、軍人に憧れて、戦後航空自衛隊に入ってジェット機のパイロットをしていたという方で、劇団のオーディションのための台詞を覚えるのに、道で大声を出していたら通報されておまわりさんに職務質問されたとか。最近は近所で顔が売れて、大声で練習していないと「近頃さぼってるんじゃないの」と、知らない人に指摘されたりするそうです。
もうひとり女性の役者さんも、近くの高速道路の下へ行って、本番同様の大声で台詞を読みながら覚えるんだそうで、この方の役作りの方法は面白かったです。
なんでも、最初に人物のキャラクターを考え抜いて、それから、自分の台詞を抜いた録音を流しながらアドリブで自分の台詞を言ってみて、その内容が本物の台詞karaあまりに遠いようならキャラクター設定を考え直すんですって。キャラクターから入るんですね。
ちなみに、蜷川さんは入院されているらしく今回はいらしゃいませんでした。残念。いらっしゃったらこの演劇を今上演する意味や必要性をお聞きできたかもしれません。
蜷川幸雄氏が入院 パリ公演同行せず – 日刊スポーツ芸能ニュース – 朝日新聞デジタル&M
そういえばこれ、香港公演もあったのですが、あちらは例の学生の立て籠もりの最中で、若いお客さんがいっぱい来て舞台を見ながら涙を流していたそうです。この社会の温度感の違いときたら。
一方で、パリ公演ではまた別の意味で「こういう熱いやつ、ひっさしぶりに見たわー」と驚かれたそうです。それも分かる気がする。先進国はどこも、革命は遠くなりにけり、です。
観客の年齢層はちょうど団塊の世代くらいで、うっわ、シニアばっかり!…と思ったけれど、幕が開いたら出演者のほうがもっと高齢だったという、シュールな、しかし現在のニッポンを反映した状態でした。
演劇の観客はどこも高齢化していますね。あのGacktの舞台ですらけっこう中高年が来てましたし。
そんなこんなで、お芝居自体は私にはアレだったけど、行った甲斐のある演劇でした。
すごく楽しめた。これが3,000円で、うちから30分で行けるとは。上出来です。
そう、会場の、穂の国とよはし芸術劇場PLAT(プラット)には今回初めて行きましたが、メインホールは、梅田ドラマシティの半分くらいの大きさで、緞帳は横幅より縦の長さのほうが長いくらいの舞台の幅。
でも黒く塗った壁は芝居小屋の雰囲気。床は木目だし、赤い椅子もおしゃれ。エントランスやトイレもすっきりして美しくて良かったです。
次は1月に、海をゆく者|穂の国とよはし芸術劇場プラット を見に行きます。
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